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東京地方裁判所 平成2年(ワ)12187号 判決

原告

小澤敏彦

被告

町井昭八郎

右訴訟代理人弁護士

横山弘美

村越進

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一二六万円及び内金二一万円に対する昭和五五年一二月二七日から、内金二一万円に対する昭和五六年一月二七日から内金二一万円に対する同年二月二七日から、内金二一万円に対する同年三月二七日から、内金二一万円に対する同年四月二七日から、内金二一万円に対する同年五月二七日から各支払済みまで日歩七銭の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五四年四月一一日、被告に対し、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を次の約定で賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。)。

(1) 賃料は月額二一万円(但し契約の日から一年間は月額一八万七五〇〇円)とし、毎月二六日限り翌月分を支払う。

(2) 賃料の支払を遅滞したときは、日歩七銭の割合による遅延損害金を支払う。

2  よって、原告は被告に対し、昭和五六年一月分から同年六月分までの賃料合計一二六万円及び各月分の賃料に対する弁済期(前月二六日)の翌日から支払済みまで約定の日歩七銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1は認め、2は争う。

三  抗弁(弁済供託)

1  被告は原告に対し、昭和五四年六月分以降の賃料を、有限会社アキヨシ(以下「アキヨシ」という。)名義の預金口座からの振替もしくは「有限会社アキヨシ町井昭八郎」名義の振込により、原告の富士銀行青山支店の普通預金口座に入金して支払っていたが、原告が昭和五五年二月分以降右口座を解約し、賃料の受領を拒絶したため、以後の賃料を東京法務局に弁済供託するようになった。

2  本訴請求にかかる賃料については、昭和五五年一二月二三日(昭和五六年一月分)、昭和五六年一月二二日(同年二月分)、同年二月二三日(同年三月分)、同年三月二四日(同年四月分)、同年四月二四日(同年五月分)、同年五月二二日(同年六月分)にそれぞれ二一万円を供託した。

四  抗弁に対する認否

抗弁は争う。現実の提供をせずにした供託は弁済供託の要件を欠き無効である。また、原告は被告に対し、昭和五六年一一月二三日、賃料を昭和五五年四月以降月額二三万円、昭和五六年四月以降月額二五万円に増額する意思表示をしたから、二一万円宛の供託は債務の本旨に従ったものといえない。

五  再抗弁

原告は、被告主張の各供託金の取戻請求権を差押え、その取立てを完了しもしくは転付命令に基づく転付を受けたから、弁済供託はその効力を失った。

六  再抗弁に対する認否

債権差押に基づく取立て及び転付により弁済供託の効力が失われたとする主張を争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因について

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二抗弁について

1  〈書証番号略〉によれば、

(1)  原告は被告に対し、昭和五五年一月二六日、被告の本件建物無断転貸、賃料不払、信頼関係破壊を理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、同年中に本件建物の明渡等を求める訴えを提起した(東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第一一一六六号)。

(2)  被告は、昭和五四年六月分から昭和五五年一月分までの賃料を、アキヨシ名義の預金口座からの振替もしくは「有限会社アキヨシ町井昭八郎」名義の振込により、原告の富士銀行青山支店の普通預金口座に入金して支払っていたが、原告は、右(1)の契約解除の意思表示と相前後して、右口座を解約した。

(3)  そこで被告は、同年二月分から毎月の賃料を東京法務局に供託するようになった。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、賃貸人である原告は、昭和五五年一月二六日書面で本件賃貸借契約解除の意思表示をし、それまで賃料を受領していた銀行口座を解約することによって、以後右契約の存続を前提とする賃料の受領を予め拒絶したものと認められるところ、かかる場合、賃借人である被告が弁済供託をするためには、改めて原告に賃料を提供する必要はないと解すべきである。

2  〈書証番号略〉によれば、被告がその主張のとおり本訴請求にかかる賃料を東京法務局に供託したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

3  右1、2によれば、被告がした弁済供託は有効であり、抗弁は理由がある(なお原告は、昭和五六年一一月二三日に本件各賃料について増額請求をした旨主張するが、過去の賃料についての増額請求権が認められないことは論を待たないから、主張自体失当である。)。

三再抗弁について

民法四八八条一項の趣旨に鑑み、ある債務の弁済としていったん有効になされた供託につき、被供託者が供託者に対する他の債権をもってその供託金取戻請求権を差し押え、取り立て、もしくは転付を受けたとしても、右弁済供託の効力には何ら消長を来さないと解すべきである。

したがって、再抗弁はその余について判断するまでもなく失当である。

四結論

以上によれば、本訴請求債権はいずれも弁済供託により消滅しており、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官三代川三千代)

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